悲恋気味/町娘/平助落ち
夜が来て、羅刹が活動する時間になった。
私は平助君の部屋で待つように言われた。
皆が連れてきてくれるそうだ。
ほぼ隔離されたような状態でいる平助君。
平助君だけじゃない…羅刹になった皆がそうなんだ。
自我を保っていられるだけ平助君はマシなのかもしれない。
――ゴホッゴホッ!!
また激しくせき込んだ。
懐から懐紙を取り出し口元に当てて咳込んだ。
落ち着いてから見るとそこには喀血したのがよくわかる。
…もう、長くない。
自分で痛いほどに実感できた。
これからなのに…これからもっと幸せなことがあるかもしれないのに。
悔しさから涙が滲んだ。
――バタバタバタッ
不意に足音が近づいてきた。
私は慌てて涙を拭い、顔をあげた。
懐紙も懐にしまい、視線を直してその足音が入ってくるのを待った。
――ガラッ
入ってきたのは紛れもなく平助君だった。
「…!!」
「平助君…!」
不意に彼は屈んで私のそばに来た。
「泣いていたのか?」
「ううん…泣いてないよ」
ここで悟られたくなくて私は明るく振る舞おうとした。
「なんでここに?」
「一昨日の夜、平助君を見かけて…。昨日の夜に会いたくて忍び込んだの」
「…馬鹿ッッ!!」
「!!」
「何危ないことしてんだよ!!俺が…俺が一昨日お前から離れたのは…お前を、を危ないことに巻き込ませないためだったのに…」
「でも…私は…私は、もう一度でいいから会いたかった。会って話がしたかった。…平助君は違うの?」
「俺だって…!!」
不意に平助君に抱きしめられた。
言葉では伝えきれない思いを伝え合うかのように。
懐かしい…何度この腕にもう一度抱かれるのを夢見たことだろう。
夢の中でしか会えないと思っていたこの人の腕に…。
平助君に抱きしめられながら昼間に土方さんに言われたことを思い出した。
そして口を開く。
「あのね…平助君。」
身体を離して話し始めた。
「羅刹に東北の地の水が良いかもしれないんだって。行こう?」
「どこで…?」
「昼間、土方さんが話してくれたの。ねぇ…行こうよ」
「あぁ…あぁ!!」
平助君は私の肩に顔を埋めて呟いた。
「はさ、」
「うん」
「土方さんは鬼の副長だと思う?」
「…ううん。鬼じゃないと思うよ。なんとなくだけど…本当は優しい人だと思う」
「あぁ、だよな。本当にあの人は鬼なんかじゃねえ。不器用…なんだよな」
「そうだね」
平助君は私に向き直ると言った。
「俺も、お前もいつまで生きられるかわかんねぇ。でも、絶対に!絶対に幸せだって思えるようにするから俺について来てくれねえか?」
「…はいっ!!」
私たちはその晩に土方さんに会いに行った。
決めたことを伝えるために。
土方さんは“よかったな、、平助”と言ってくれた。
それから夜が明けるのを待って幹部の皆に挨拶をした。
平助君はちょっと辛そうだったけど幹部の皆にも祝ってもらえて嬉しそうだった。
その晩、事情を知る皆に見送られて私たちは京を出た。
あとどのくらいこの人の隣にいられるかわからない。
明日には私が倒れてしまうかもしれない。
明日には平助君が血に狂ってしまうかもしれない。
でも、残された日々を大切に生きていこう。
それが私と平助君の決めた道だから。
それが…二人の幸せだから。
まだ幼さの残る背中を見つめながらそう胸に誓った。
――END――
私は平助君の部屋で待つように言われた。
皆が連れてきてくれるそうだ。
ほぼ隔離されたような状態でいる平助君。
平助君だけじゃない…羅刹になった皆がそうなんだ。
自我を保っていられるだけ平助君はマシなのかもしれない。
――ゴホッゴホッ!!
また激しくせき込んだ。
懐から懐紙を取り出し口元に当てて咳込んだ。
落ち着いてから見るとそこには喀血したのがよくわかる。
…もう、長くない。
自分で痛いほどに実感できた。
これからなのに…これからもっと幸せなことがあるかもしれないのに。
悔しさから涙が滲んだ。
――バタバタバタッ
不意に足音が近づいてきた。
私は慌てて涙を拭い、顔をあげた。
懐紙も懐にしまい、視線を直してその足音が入ってくるのを待った。
――ガラッ
入ってきたのは紛れもなく平助君だった。
「…!!」
「平助君…!」
不意に彼は屈んで私のそばに来た。
「泣いていたのか?」
「ううん…泣いてないよ」
ここで悟られたくなくて私は明るく振る舞おうとした。
「なんでここに?」
「一昨日の夜、平助君を見かけて…。昨日の夜に会いたくて忍び込んだの」
「…馬鹿ッッ!!」
「!!」
「何危ないことしてんだよ!!俺が…俺が一昨日お前から離れたのは…お前を、を危ないことに巻き込ませないためだったのに…」
「でも…私は…私は、もう一度でいいから会いたかった。会って話がしたかった。…平助君は違うの?」
「俺だって…!!」
不意に平助君に抱きしめられた。
言葉では伝えきれない思いを伝え合うかのように。
懐かしい…何度この腕にもう一度抱かれるのを夢見たことだろう。
夢の中でしか会えないと思っていたこの人の腕に…。
平助君に抱きしめられながら昼間に土方さんに言われたことを思い出した。
そして口を開く。
「あのね…平助君。」
身体を離して話し始めた。
「羅刹に東北の地の水が良いかもしれないんだって。行こう?」
「どこで…?」
「昼間、土方さんが話してくれたの。ねぇ…行こうよ」
「あぁ…あぁ!!」
平助君は私の肩に顔を埋めて呟いた。
「はさ、」
「うん」
「土方さんは鬼の副長だと思う?」
「…ううん。鬼じゃないと思うよ。なんとなくだけど…本当は優しい人だと思う」
「あぁ、だよな。本当にあの人は鬼なんかじゃねえ。不器用…なんだよな」
「そうだね」
平助君は私に向き直ると言った。
「俺も、お前もいつまで生きられるかわかんねぇ。でも、絶対に!絶対に幸せだって思えるようにするから俺について来てくれねえか?」
「…はいっ!!」
私たちはその晩に土方さんに会いに行った。
決めたことを伝えるために。
土方さんは“よかったな、、平助”と言ってくれた。
それから夜が明けるのを待って幹部の皆に挨拶をした。
平助君はちょっと辛そうだったけど幹部の皆にも祝ってもらえて嬉しそうだった。
その晩、事情を知る皆に見送られて私たちは京を出た。
あとどのくらいこの人の隣にいられるかわからない。
明日には私が倒れてしまうかもしれない。
明日には平助君が血に狂ってしまうかもしれない。
でも、残された日々を大切に生きていこう。
それが私と平助君の決めた道だから。
それが…二人の幸せだから。
まだ幼さの残る背中を見つめながらそう胸に誓った。
――END――
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2012/09/09
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