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悲恋
私は新選組の女隊士だった。
そして副長である彼ー…土方歳三と恋仲だった。

彼とは江戸にいたころから付き合っていた。剣術の道場を親が営んでいて、彼がそこに来たのが私たちの出会いだった。

それから二人とも自然に会うようになって付き合い始めた。
京に来る時も私はついてきた。
そんな彼とは支え合える仲になった。

2人で名前を呼び、目が合うと微笑む。それだけで満ち足りていた。

ある日、私の体調が優れなくて医者にかかると“妊娠している”と告げられた。

私は屯所に帰るとこのことを歳三さんに告げた。
すると私に隊を抜けるように言った。
子供のことを考えると当然なのかもしれない。
ここは幼い子供にとっては危険すぎる。

でも、今ここを抜けたら二度と彼に会えないかもしれない。
時代はこれから大きく動くだろう。
無事に生きていられる保証はないのだ。

私はある晩、歳三さんの部屋を訪ねた。

「歳三さん、入りますよ」
「あぁ」

歳三さんの部屋はいつも綺麗なんだか汚いんだかわからない、でもすごく安心できるところだった。

「私はこの子を産みたいです。でも、歳三さんとも離れたくない…!!」
「俺だってと離れたくねぇし、腹の中の子にだって会いてぇ」
「ならっ!!」
「でもな、俺はここを抜けるわけにはいかねぇ。かといって、ここは子供がいるには危なすぎる場所なんだ。わかるだろ?」
「…わかるけど…」
「俺だって辛いんだ。わかってくれとも、許してくれとも言わねぇ。いくらでも俺を憎んだっていい。ただ、この子を頼んだ。俺とお前の大事な子供だ。」
「歳三さん…」

私は彼の言葉を聞いてようやくここを抜ける決心がついた。
これだけこの子のことを歳三さんは大事に思ってくれている。
ならばその思いに応えよう。いや、応えたい。

「歳三さん、私は明日の早くにここを出ます。」
「あぁ…」
「お腹の子は任せてください。立派に育て上げて見せます。また歳三さんに会えた時、胸を張れるように。」

私が言い終わるか終らないかのうちに歳三さんに抱きしめられた。
彼の背中は僅かに震えている。顔は見えないけど泣いているのだろう。
そう思うと私も我慢していた涙が出てきて、静かに泣いた。
しばらく抱き合っていると歳三さんは私を綺麗な紫色の瞳でまっすぐに見つめた。


「はい?」
「ありがとう。お前は本当にいい女だ。俺なんかにゃ勿体ねぇくらいにな。別の男と一緒になって幸せになってくれと言いてぇ所だが、できねぇ。いつ帰るかわからねぇが、俺のことを待っていてくれるか?」
「勿論です。私の幸せは歳三さんがいないと成り立ちません。お腹の子と一緒に待っています」
「あぁ…本当にありがとう。」
「歳三さん、私こそありがとうございます。私は歳三さんとの子を産めることを誇りに思います。しっかり帰る場所は空けておきますから。しっかり帰ってきてくださいね」
「あぁ。頼もしいな」
「じゃあ、私はそろそろ寝ます。明日は早いですし」
「あぁ。おやすみ」
「おやすみなさい。歳三さんも寝てくださいね」


そう言って私は部屋を出た。
屯所の廊下から見える月は綺麗な三日月だった。
きっとこの月を私は忘れられないだろう。
大好きなみんなのいた屯所で見た最後の月なんだから…。

――翌朝――

まだ誰も起きていないひっそりとした屯所の玄関に二つの人影があった。

「じゃあ気をつけろよ」
「はい、歳三さんこそしっかり私のもとに帰ってきてくださいね。待っていますから」
「あぁ。…俺はどこにいてもと腹の子の幸せを願っている」
私たちはどちらともなく唇を重ねた。
伝えきれない思いを伝え合うように…。

大丈夫、私には歳三さんから貰った思い出がある。
離れている間もきっと頑張れるはず。
あなたにもう1度会えるその日まで…。

――END――

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