悲恋/死ネタ/人外
俺が其処に行くのは決まっていたことだったのかもしれない。
伊東さんとのことで悩んでいた俺は近くの見晴らしの良い山に登った。
「んー…!やっぱ此処は良いな!風が気持ち良い!」
吹き抜ける風を感じながら腰を下ろし考えた。
此処ならいい考えが…決断ができると思ったんだ。
「ほんと俺どうすんだよ…」
頭を悩ませ始めてからどのくらいの時間が経ったのだろうか。
俺はいつのみなか眠ってしまっていたようだ。
「これ、其処の者。早う起きろ。」
「ん…。」
「漸く起きたか。妾がどれだけ呼んだと思うておる」
「え…。」
「風邪をひくから早う起きろと何度も申したというのに。あまりに起きぬから死んだかと思うたぞ」
ふと見ると辺りは茜色に染まっていた。
身体の上には羽織が掛けられていた。
「えっ…!悪い、起こしてくれてありがとな!それとこれも…」
「良い。だがあまり此処に長居するのは感心せぬ。そのうち身が朽ちる」
「えっ!!なんで…?」
聞いてから思い出した。
この山には人を食らう鬼女が住んでいて迷い込んだ者を食べるのだという。
そして其れを食べて満足した年の紅葉はとても美しいと…。
鬼という存在は信じるがまさか此処にはいないと思っていた俺は驚いた。
「あの噂は本当だったのか…。」
「?…何をぼそぼそと言うておる」
「いや…お前が鬼だったなんて驚いちまってさ」
「妾は鬼などではない。この山の主だ。…言わばこの山の精霊と言ったところだ」
「お、鬼じゃねえの?」
「鬼などと一緒にするでない。…だが妾を見て逃げ出さなかったものは初めてじゃ。面白い。名を何と申す?」
「…と、藤堂平助。」
「覚えておこう。妾の名は。」
「よろしくな」
「よろしく、か。ふふ…益々面白い。平助、また暇があれば来るといい。」
「お、おう」
これが俺との出逢いだった。
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2012/10/07
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